恩師の旅立ち

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先週の土曜日。
学生時代のゼミ仲間から、続々と携帯に連絡が入った。

「先生が亡くなった」と――。

その先生とは、朝鮮半島問題や日米関係の研究などで知られる
国際政治学者の神谷不二氏。

私の恩師だ。

先生の講義を初めて受けた時、
「こんなにも、面白い授業があるのか」
と、知的好奇心が呼び覚まされたのを今でも覚えている。

私が大学に入学したのは、まさにベルリンの壁が崩壊し、
冷戦が終結した年。

国際情勢が激動しているこの時期に国際政治を学び、
そして今、自分がこの「時代」を生きていることは、
きっと何か意味があるのだろう。

そんなことを感じた学生時代だった。

神谷先生のことを思い起こすと、
礼節を重んじる厳格な先生と、温厚でお酒好きな先生の
両方が思い出される。

授業に1秒でも遅れた学生や授業中に私語を交わす学生がいると、
「出ていきなさい」と、ピシャリと叱る神谷先生。

ピーンと張り詰めた、あの教室の空気。
今でも背筋が伸びる思いがする。

その一方で、ゼミ生との親睦を深める「ゼミ会」では、
お酒を飲み、朗らかに笑いながら学生の話を聞いてくださった。

そういえば一度、「智子、お酒のピッチが早いですよ」と
たしなめられたこともあったっけ(笑)。

就職活動の時には、

「ニコッと笑うだけではダメ。『ありがとうございます』と、
きちんと言葉に出して伝えなさい。そんな姿勢では、どこにも受かりませんよ」

と電話で言われたのを思い出す。

あの時は、悔し涙があふれてきたが、
あれは、先生の「愛」だったんだなって思う。

その後も心を配ってくださり、

「こんな会社がありますが、興味ある人はいますか」と、
先生が顧問を務めるシンクタンクをゼミ生に紹介してくださった。

そこに手を挙げた私。

当初は、まったく考えていなかった業種だったが、
「縁」をつないでいただき、入社することになった。

それによって、大きく変わった私の人生――。

それからも、公私ともに温かく見守っていただいた。

そして・・・

今でも忘れられないのが、
20代半ばの頃、結婚しようと思っていた人と破談になった時のこと。

「どんな顔をして、先生にその話をすれば良いのだろう」と
思い悩みながら報告に行くと、

先生は多くを聞かず、多くを語らず、
「そんなこともありますよ」と、受けとめてくださった。

あの一言に、どんなに救われたか。
今でも感謝の気持ちでいっぱいだ。

恩師の旅立ちはあまりに急で、まだ心の整理はついていないが、

先生からの「教え」と、いただいた「愛」は、
未来永劫、私の心の中に生き続けると思う。

神谷先生、ありがとうございました。
いつかまたお逢いする日まで・・・・・・